花の鎖 (文春文庫) [234回参照されました]
あおみさん がこの本を手に取りました。あおみさんは、これまでに174冊の本を読み、67,684ページをめくりました。
本の紹介
100% [全357ページ]
状態 読み終わった!
2014/07/08 22:07:47更新
著者 湊 かなえ ブックリンクされた本
-評価
★★★★☆感想
時代は絶えず変化しながらも、続いているという現実をやりきれない感情と深い愛情とともに教えてくれる作品だった。
美雪の時代に起こった不幸な出来事。その発端は卑しくも生々しい人間の妬みや見栄という感情。美雪はその悲劇に絶えられず、人生に幕を降ろそうとしたが、その境で一つの希望を見出してしまう。その希望が更なる切なさの渦中に迷い込むとも知らずに。
希望とは美雪の娘、紗月だ。彼女は幼くして、他人の命と亡き父の仇のどちらをとるかという重大な決断を迫られる。
そして紗月の娘である梨花は、悲しいほどに何も知らなかった。自身だけ孤立しているような、どこか蚊帳の外に追い出されているような苦しい気分だったろう。しかし、彼女も母、祖母に負けない勇気の持ち主だった。
三世代に渡る物語をしっかりと結びつけたのだ。
惜しむらくは結末における梨花の言動だ。少し、淡々としており感情の昂りがあまり感じられなかった。
私は読中、Kが誰なのか、ということについて一切考えようとしなかった。なぜなら、本書はミステリー小説ではないからだ。
悲しい現実の中で果敢に、凛として生きている彼女たちの姿に胸を打たれて、ミステリーの要素を感じられる余裕を微塵も持ち合わせていなかった。
著者、湊かなえ 氏の作品に心を奪われたのは彼女のデビュー作「告白」が最初だ。この本を読んだ時、まさに胸が震えた。
こんなにも現実的な小説があっていいのか、と驚き、こんなにも報われない物語があっていいのか、と悲しみ、母の愛情の大きさと同時に憎しみの大きさに恐れを抱いた。
著者が描く、苦しく悲しい現実に、現実的な感情を伴いながら立ち向かう姿に、希望と感動を感じることができる。著者の主人公の多くは女性で、そしてそのほとんどが母親である。
十月十日自身の栄養を分け与え、お腹を痛めて産んだ子どもに対する何物にも代え難い愛情の大きさは、男である私には一生分かり得ないだろう。これは女性だけの特権だと思う。だからこそ憧れるし、触れていたいと思うのだろうか。
本書でも二人の強き母親が描かれていた。特に、紗月が父の仇の息子の命を救うと決断したときの美雪の優しさには涙が零れた。
そこには信用や、信頼ではなく、濁りの一切ない愛が確かにあった。
事実が醜い感情で捻じ曲げられる嫌な世の中で、個々の人生と家族のつながりは絶えず変遷していくが、必ず繋がっているということに勇気をもらった。親が子を思う気持ちは子に確実に伝わり、幾度となく繰り返される。
しかし、そんな移り変わる世の中でも変わらないものがある。物語の中で、三世代に渡って登場する「山本生花店」や「梅香堂」にそのことを教わった。
変わりながらも繋がる強さと、その中で変わらない拠り所をいつか自分の人生でも見つけられますように…。
読書の軌跡
357ページ | 2014/07/08 22:07:47 |
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