ライ麦畑でつかまえて [262回参照されました]
あおみさん がこの本を手に取りました。あおみさんは、これまでに174冊の本を読み、67,684ページをめくりました。
本の紹介
100% [全306ページ]
状態 読み終わった!
2014/05/14 00:28:53更新
著者 J.D.サリンジャー ブックリンクされた本
-評価
★★★☆☆感想
誰もが経験した青春の時代。その中で何人もの若者が自己と周囲との差異に頭を抱え、苦しんだだろうか。
「自分だけはこいつらとは違う」
そんな気持ちを抱えながらも、周囲から浮いた存在にならないように自己の特別性の表出を抑えながら周囲へ溶け込もうと努力し、その自身の努力自体に嫌悪を覚えて、自分には特別性がないのかと悶える。
その事実を受け入れるか、尚も反撥するかでそれ以降の行動は大きく変わる。
受容した者は確実に「大人」の世界へと足を踏み入れた。そして、その踏み入れたという自身の行動を理解している。
この世界こそが、本書の語り手であるホールデンが途轍もなく嫌悪した存在である。インチキなものである。彼に言わせれば、反吐の出る参った存在だ。
このようにホールデンは、自分は特別だ、この世界がインチキなのだ、と世の理である先述した事実に強く反撥した者の一人だ。
他人をすべからく評価し、多くを見下し、少なくを呆れた。自分が嫌がることをすれば「参った」。自分に敵意を向けてくれば「この低脳野郎」。こうして虚勢を張ったり、見栄を張ったりすることでホールデンは、自己というものを必死に守ったのだ。そうしなければ彼の中の何もかもが崩れたのだろう。生きていくための勇気も、死にたくないという願いも、何もかも。
こうした言わば「子供」の世界に生きるホールデンだが、こうした者ほど大人への憧れは人一倍あるものだ。酒に煙草に女遊び。自分では様になっていて、周りにはバレるはずがないと高を括っているが、その実、何度も年齢確認を受けているし、口説かれている女はくすくすと嘲笑っている。
しかし、そこで自己を省みることはしない。いや、できないのかもしれない。ホールデンのような「大人」の世界を嫌う若者の多くは、自分が周囲の人間と同じ世界に住む人間の内の一人でしかないことを知っている。が、その現実から強く目を背けている。忘れている。従って、省みてしまうとその現実が一挙に、必死に積み上げた自己の心の壁を乗り越えて雪崩れ込んできそうなので、振り返ることができないのだろう。
つらつらと述べたが、実に文章で感想を表現するのは簡単だ。
それらしい言葉を用いて、思ったことを書けば感想にはなる。
しかし、事実は違う。
事実というか、少なくとも私はこんなにも偉そうに「大人」と「子供」の世界について述べられる人間ではない。
なぜなら、未だに自分は特別なのだと、自分には自分の世界があって他者とは独立しているのだという幻想を抱いているからだ。
幻想だとは知っている。
幻想に溺れている幼い心の持ち主だということもしかと認識している。
しかし、この穏やかな暖かい幻想の海からは抜け出せないのだ。
抜け出してしまうことが怖くてならないのだ。
自分は他人と同じと思うことが恐ろしくてたまらないのだ。
一度受け入れてしまうと、なぜ何億人もの内の一人がいま必死に生きているのか、そしてこれからも生きる努力をしないといけないのか、という疑問が大群を成して押し寄せてくると思ってしまい、不安で心が壊れそうになってしまう。
分かっている。分かっているのだが、分かりたくないのだ。
結局、ホールデンも私たちも、他人との繋がりを心の底から何よりも欲している。
そのための悪言であり、悪態であり、逃避である。
誰か引き留めてくれないかな、誰か本気で心配してくれないかな、誰か自分を世界にただ一人の人間だと思ってくれてないのかな。
そんなことを確かめたくて、つい見栄を張る。
このような人間は数多いるだろう。というか、私は全人類こそがこの思想を抱いているのではないかと思う。他者との違いの確認こそが自身の成長の源泉であり、活力なのではないかと思うのだ。だから輝かしいとも思う。
ホールデンの恩師、アントリーニ先生も「道徳的な、精神的な悩みに苦しんだ人間はいっぱいいたんだから。(中略)こいつは教育じゃない。歴史だよ。詩だよ」と言った。
悩んで当然。悩むのは人間の性なのだ、と。
私ならここで救われていたのかもしれない。
ホールデンは私以上に、葛藤していたみたいで、救われなかったようだが。
とにかく私は、アントリーニ先生をとても素晴らしいと思った。
言葉が頭に強く響いた。
こんな頭に浮かんだことをただ書き殴った感想を書きながら、人間とは、特に若者とは酷く恥ずかしい生き物だと強く思った。ただそれ故に、生きることに直向きで、全力で、活力が溢れていて、素晴らしい、輝かしいものだな、と思った。
ある意味で、本書は人間賛歌が主目的なのかな。
読書の軌跡
306ページ | 2014/05/14 00:28:53 |
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