石橋湛山―リベラリストの真髄 (中公新書) [152回参照されました]
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本の紹介
100% [全270ページ]
状態 昔読んだ
2010/09/26 11:34:47更新
著者 増田 弘 ブックリンクされた本
評価
★★★★★感想
出版年が1995年とやや古く、通年的に湛山の主張が紹介されるので、個々のエピソードを軽く読んでしまうと。さらっと、印象も深く無く読み進めてしましそうです。
しかし特に、明治期から戦前期の東洋経済新報社論に関する短い個々のエピソードは、その時代の常識や暴力的な統制に対しても毅然と(検閲で止むを得ないときは遠隔表現を使って)批判をするすがたは「鬼気迫る」ものを感じます。清沢洌は「日本人は戦争に信仰を有していた。日支事変以来、僕の周囲のインテリ層さえことごとく戦争論者であった。…これに心から反対したものは、石橋湛山、馬場恒吾両君ぐらいなものではなかったかと思う。」(暗黒日誌Up.71)と述べています。完全普通選挙、議院内閣制の擁護、統帥権を盾にする軍部の痛烈批判、日中戦争の終結と中国へのオープドア制裁と、旧体制に対する基本的批判を全て網羅しています。
太平洋戦傷終結後は、日本再生のため政界に進出しますが、官僚出身の吉田茂の外交官らしい権謀術数とはそりが合わず、党人派鳩山一郎と連合を組みますが、鳩山の郷愁的ナショナリズムによる日本再武装論とは相いれませんでした。
第一吉田内閣の大蔵大臣として入閣するものの、GHQのデフレ政策の指示に対し、日本は不完全雇用状態にあるとして、完全雇用へ向けての積極財政を主張、さらに、進駐軍の経費が、政府予算の3分の1を占め、かつその中には占領政策に無関係な私的使用が見られる事などを明らかにして、進駐軍経費の削減をねらったようです。その結果、GHQの政策への不服従、進駐軍経費の削減要求などに、頭にきたGHQが湛山を公職追放に指定したようです。筆者のインタビューに対し、当時民政局のケーディス大佐は、「湛山の戦前のリベラルな主張は知らなかった」と答えたそうですし、当時経済科学局財政課長ビープラットは、「湛山後の蔵相はイエスマンばかりでやり易かった」と答えているそうです。旧体制の日本であれ、進駐軍の方針であれ、信念に従って意見を主張する気概がみてとれます。
透徹した目で時局を適切に分析し、けして権力におもねないないというジャーナリスト、自由主義、民主主義、世界平和をなんのてらいもなく主張した政治家、このような傑出した人物を我々はまた生み出すことができるのでしょうか。
読書の軌跡
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