七つの黒い夢 (新潮文庫) [1331回参照されました]
aoitakuさん がこの本を手に取りました。aoitakuさんは、これまでに510冊の本を読み、154,371ページをめくりました。
本の紹介
100% [全208ページ]
状態 読み終わった!
2008/04/27 18:56:12更新
著者 乙一 ブックリンクされた本
-評価
★★★★★感想
奇談・怪談を七人の作家がそれぞれ個性でもって書き綴った短篇集。
七作品、それぞれがそれぞれの作家の味がして、どれも美味しい作品でした。
ということで、感想は作品ごとに。
***
・この子の絵は未完成(乙一)
繊細で美しい一作。
実は私、乙一作品をこれまで一作も読んだことありません。で、これまで、いわゆる「黒い」内容が多いような印象を(勝手ながら)持っていたので、七つの黒い夢と聞いて黒い作品かと思えば、そんなことはなかったわけです。
さておき、この作品の見所はというと、結末の美しさであるとか、そこに至る過程であるとか、そういうことではなくて、むしろ、非常識が当たり前のように描かれているところにあると思います。そしてそれについて何ら理由の説明がない。この妙をこそ味わってほしいなぁ、と。
・赤い毬(恩田陸)
不思議な体験を綴った、味わい深い作品でした。
追体験するように、「私」の独白と「私」の視点での描写で物語が展開していくわけですが、臨場感であるとか、緊張感であるとか、それがとてもよく表現されていて、引き込まれずにはいられない。
特に、独白に対する「母」の否定と、それでもそれは事実だったのだと、「私」が「母」の言葉を否定することで、その体験の奇妙さ、不思議さを印象付けている点に注目してほしいところ。「私」と「母」、そして「祖母」と、その連なりにも、もちろん無関係ではないと思うので。
・百物語(北村薫)
実は私、怖い話が苦手なんです。
怪談や都市伝説の類が特に苦手でして、はっきりしないもの、正体の分からないものなど、背筋にぞくぞくと電気が走るようです。
で、百物語というと、一つ一つ怪談を話していくわけですが、別に百物語をひとつひとつ語る、そういう話ではありません。短篇ですから、ページが足りるわけがありませんし。なので、百物語を題材にした、怪奇小説ということになります。
おお、怖い怖い。
この作品で秀逸なのは、まず導入で、「わたし、寝たくないの」の一言はかなりインパクトが強かったです。男ならあらぬ想像をするところですが、そうではない、とすぐに示して、事情を説明しながら、本題へと入っていく、その流れもスムーズでした。
それから、「ろうそくを消す」行為の代替として部屋の灯かりをひとつずつ消すところ。これが徹底されていた、という点もとてもよい。なにしろ、電話機のランプまで消すという。しかも意味があってのことなので、なおのことよい。
そして、何より、最後の一文。ここには書きませんが、これは……ぞっとしますね。余韻の残し方というか、結末のぼかし方というか。
さて、ここらで一言「おまえだー!」が怖い。
まんじゅう怖いでした。
・天使のレシート(誉田哲也)
タイトルホイホイでした。
これについては細かな感想は書きません。展開の妙をぜひ味わってもらいたいので、多くは語りたくないんです。
ただ、この一冊にあって、この作品が一番好きかも。
・桟敷がたり(西澤保彦)
これまた後味の悪い一作。
面白いと思ったのは、直接ではなく、事件を通して心理を描き出す点。徐々に明らかになる事件の容貌から、そこに込められた感情を知って、そのおぞましさが見えてくる。
もちろん、事件を紐解く過程もよく練られていて、これはいいミステリでした。
・10月はSPAMで満ちている(桜坂洋)
一応、よくわかる現代魔法の外伝的な話になってるみたいです。
桜坂節満載。情報産業的な話題も、これでこそ桜坂洋です。
SPAMを取り扱う会社に入った「ぼく」の話は、ちゃんとSPAMで終わります。
もちろん、タイトルも無意味ではなくて。
なんというか、よくわかる現代魔法を読んでると嘉穂が「すーぱーはかー」なのは自明なので、特に「やられた」というわけじゃないのだけれど、「やられた」人間を見てるのは微笑ましくていいですね。まぁ、分かってて書いてるんだろうけど。
それにしても嘉穂かわいいよ嘉穂。
・哭く姉と嘲う弟(岩井志麻子)
怪談語りの体裁を取った、この話自体も怪談、という二重構成の妙がとても心地良い作品でした。
そこかしこにただようエロティシズムも、とても味わい深い。「姉」と「弟」という立場を選んだのも、そのためかなと思います。あと「弟」の視点で語られる奇談に対する感想の、語り口調の丁寧さとかも。
視点がずっと弟視点できて、最後に実は、という展開は、一人称だからこそできることですね。姉の描写がまったくない点も、まさしくそのため。
ごちそうさまでした。
読書の軌跡
208ページ | 2008/04/26 01:17:50 |
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