無私の日本人 (文春文庫) [788回参照されました]
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本の紹介
100% [全384ページ]
状態 読み終わった!
2017/07/17 00:43:15更新
著者 磯田 道史 ブックリンクされた本
-評価
★★★★★感想
(p31)武家の領地も屋敷も、みな殿様からの拝領物で、売り払えないから担保にはできない。武家に金を貸すには、武家のところに入る年貢米を差し押さえる技が要る。藩の役人たちに日ごろから、つてをつけて、便宜をはかってもらい、武士の屋敷に年貢米が運びこまれる前に、差し押さえられるものたちだけが、武家相手に金貸しができた。
(p33)江戸時代は…お上の許しなく、三人以上がひそかにあつまり、ご政道について語れば、それは徒党であり、謀反同然の行為とみなされる。
(p64)なあに、こういうときは、人が驚くような宝から質に入れるものよ。そうすれば皆が本気になる。
(p93)江戸という社会は、日本史上に存在したほかのいかなる社会とも違い、身分相応の意識でもって保たれていた…武士が見事に腹を切るのも、庄屋が身を捨てて村人を守るのも、この身分相応の原理に従ったものであり…身分相応の行動をとるのが、あたりまえであり、それに従わぬものは、世間から容赦なく、卑怯者、無道者の烙印をおされ、白眼視された。
(p117)大名の行政処理は、元禄ごろまで、これほど遅くはなかった。十七世紀までは、日本の「大名家中」は戦国の戦闘集団のにおいを失っておらず、動きは機敏であった。役所の手続きも複雑化しておらず、法度よりも人の裁量ですばやく動いていた。が、泰平の世になるにつれ、それがかわった。藩の行政機構は、人数だけが肥大化し、悪くいえば、空虚な伝言ごっこのごとくになった。
(p120)江戸時代の政治の最大の欠点は、ヨーロッパにみられた身分制議会のようなものがなかったことである。主君への忠義、上への責任で動く官僚制の仕組みは見事であったけれども、下からの請願を政治に吸い上げることには不得手であった。
(p124)藩はもともと軍事集団であったから、きめこまかな民政は得意ではなかった。そこで、村請といって、民政を町村とその有力者に丸投げした。町人百姓のなかから有力な者をえらんで、庄屋(肝煎)・大庄屋(大肝煎)などの公職につけ、村の自治を前提に民政をおこなった…もとは百姓だが、大肝煎などの職は、たいてい世襲されたため、次第に藩の官僚といった色彩をおびてきて、本人たちも、そのような意識で暮しはじめた。
(p129)江戸社会において、苗字や帯刀は、ある程度、「参政権」の有無を表示していた…異議申し立ては苗字のついた村役人を通じて手順を踏んで行われなければならぬ、というのが、きまりであった。
(p131)ともかくも、千坂は、この男にすがるしかないと感じた。そう思うと、千坂のなかに激しい感情がわいてきて、口から、あの夜、菅原屋が泣きながら語った言葉が、まるで口うつしされたかのように、奔流のごとく、ほとばしり出てきた。
(p135)家のなかで、ふつうに、家族や友として、気の優しい人間であることは、たやすい…しかし、いったん役所にはいると、自分の立場を守るために、本音では別のことを思っていても、建前で生きることに慣れてしまう。組織人となったとき、上司や大勢に逆らって、自分の家族や友に接するがごとき立場で、言を発することは難しい…橋本代官はそれをやろう、としてくれている。自分が、吉岡の民であったなら、という気持ちになって動いてくれる。
(p144)東北や南九州は、江戸や大阪から遠く離れており、民が産物をかついで都会に売りに行きにくい。こういうところでは、藩が産物を買い上げて、都会に売ってしまう。だから、東北や九州では、藩が強い。しかし、民間経済は育たず、弱い。薩摩藩は佐賀藩が幕末に富強であった理由はここにあった。東北にとって不幸だったのは九州とちがい、主食である米を都会に売るしかなかったことである。
(p236)聖人君子のことばは、われわれを美しい月に案内してくれる指のようなものだ。わたしたちはただ、ひたすらに月をみればよい…あやうく、指を持って月とするところであった。四書五経は指にすぎない。大切なのはその彼方にある月だ。
読書の軌跡
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