兄弟〈下〉開放経済篇 (文春文庫) [87回参照されました]
ぼんぼんさん がこの本を手に取りました。ぼんぼんさんは、これまでに145冊の本を読み、49,132ページをめくりました。
本の紹介
100% [全524ページ]
状態 読み終わった!
2011/03/30 10:41:14更新
著者 余 華 ブックリンクされた本
-評価
★★★★★感想
http://www.bunshun.co.jp/brothers/
文化大革命~開放時代の激動の中国の歴史を背景に、
血の繋がらない兄と弟の何十年に渡る生き様を描いた小説。
『大地の子』の時代背景とほぼ同じぐらいかな~。
中国の小説はあまり馴染みがないのだけれど、これはおもしろかった!
おもしろいというのは、笑えるとかおかしいとかそういうものだけじゃなくて。
悲劇も理不尽さもどうしようもなさも滑稽さも全部込みで、
登場人物たちの生き様に魂ゆさぶられました。
人生ってすごい。
人が生きた道というのは、こんなにも波乱と笑いと涙にあふれたものなんだ。
母の連れ子で豪快でお調子もので本能のままに生きる李光頭と、
父の連れ子で頭が良く控えめでハンサムな宋鋼。
血の繋がらないふたりの兄弟は、性格も生き方も対照的。
でも絆だけは誰よりも強くて、文革の波で何もかもを失っても
離れ離れになっても、互いを想い合って強く生きていく。
文革って、私のような若い世代にとっては教科書や小説で学ぶ歴史上の出来事だけど、
文字で読むだけでもやっぱり壮絶。想像が追いつかない。
理不尽な時代と暴力の中で描かれる大切な人の死。
そのなかで変わらなかったものは、
李光頭のたくましさと宋鋼の優しさ。
そして兄を、弟を想う強い気持ち。
変わらないことを心のどこかでわかっていたから読み進められたのかもしれません。
と、ここまでが前編。
そして後編。
兄弟が大人になった後編がある意味本筋というか、真骨頂なのですが。
変わらないと信じていた兄と弟の絆が、
恋や地位やお金や生き方によって少しずつほころんでいきます。
それはたぶん、ふたりが大人になってしまったことの悲しみ、怒り。
宋鋼は林紅との愛に生きて、
林紅との恋に敗れた李光頭は独創的な知恵と欲望でこの世界をのし上がっていく。
貧しさと不幸のどん底からのし上がっていくこの課程は、『銭ゲバ』を思い出しました。
職を失い、最後には自らの身体にメスを入れた宋鋼。
金と権力は両手に余るほどつかんだのに、林紅の心だけは最後まで手に入らなかった李光頭。
宋鋼を愛しながらも、貧しさと悲しみに負けて李光頭のもとにいってしまう林紅。
みんな自分のことで精一杯で、でも一生懸命になればなるほどすごく悲しい。
取り巻く環境や生い立ちは不幸でも笑いあっていた子供時代のふたりと
世の中が変わって華やかになっても不器用にしか生きられない大人になったふたり。
兄と弟が対照的な性格であるように、ふたりの人生もまた光と影が交互に映し出していました。
どっちが幸せだとか、誰の生き方が良かったのかなんて私にはわからない。
だけど、大切な人がいるがゆえに人は強くもなるし、弱くもなる。間違いもおこす。
血がつながっていてもわかりあえないこともあるし、
他人であっても血のつながり以上の絆を結ぶこともできる。
最初に書いたように、悲劇も理不尽さもずるさも弱さも優しさも全部全部込みで
このふたりの人生を肯定したくなるような小説でした。
歴史や人に翻弄されても、ただ生きる。
流されても倒れても傷ついても、生きることがただひとつの答えなんだと思います。
読書の軌跡
524ページ | 2011/03/30 10:41:14 |
コメント
ぼんぼんさん(2011/03/30 10:41:53)コメントするにはログインが必要です。