二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕 [61回参照されました]
あおみさん がこの本を手に取りました。あおみさんは、これまでに174冊の本を読み、67,684ページをめくりました。
本の紹介
100% [全562ページ]
状態 読み終わった!
2013/06/19 03:01:21更新
著者 デイヴィッド・ゴードン ブックリンクされた本
-評価
★★★★☆感想
二流の小説家と自称するハリーが語る、自身の壮絶かつ驚愕の数日間を描く。
本書はハードボイルド仕立てになっている。所々に、必要なのか判然としない性描写や酒を煽る様子が描かれており、人物の言動も少し鼻につく部分がある。
その所為あってか、全体として中弛みの感は否めない。果たしてこの箇所は結末に向かうに連れて、機能を持ち、どんでん返しに働くのか、と頭を傾けながら何度か頁を捲った。
これらが機能を果たしたのか、はたまた元々機能などなくただ連ねられた文章だったのかはさて置き、一冊の本としての評価に移ろう。
結論から言えば、面白かった。
三段のオチを用意しており、それぞれの段を登るに連れて脳裏に浮かぶ疑問や疑念が次のオチで払拭される。
ハリーの自虐的というか、自分をえらく卑下したような物の言い方や、クレアの歳を思わせない大人な態度、FBI捜査官であるタウンズがハリーに対して信頼を徐々に置いていく照れなど、登場人物の個性もしっかりと際立っており彼らの会話も楽しめた。
しかし、先ほど三段のオチが用意されていた、と書いたが、確かに三段目に辿り着いたときには驚いた。「木の葉を隠すなら森の中」とでも言うかのように、猟奇的な殺人の中に私情による殺人を紛れ込ませたのだ。
だが、これを三段目に持ってきたことで一段目、二段目の段差が低まったのではないか、と感じた。
一段目で新たな犯人が現れる。
そこで、12年前の犯行もこの人物がしたのではないか。いま拘留されているダリアンは、供述の通り犯行には手を染めてないのではないか。
しかし、やはり殺していた。これが二段目である。ここでダリアンと彼の母の壮絶かつ凄惨かつ悲しい過去が明るみに出る。
そうして第三部は幕を閉じる。
しかし第四部の冒頭でハリーはこう語る。
『もしこれが型どおりの探偵小説なり警察小説なりであるならば、物語はすでに終わっているはずだ。(中略)だが、ぼくは型どおりの探偵ではないし、ぼくが経験した物語にはもうひとつ、さらなる展開が待ち受けている。』
この四部なくして三部で完結していたなら本書は、間違いなく駄作である。
解決できていない問題が多すぎるし、何より結末の衝撃が小さい。
待ち受けていた真相は、読者が気付ける筈もないものであるし、その真相が判明したところで誰が救われるでも、何かが変化するでもない。
この"弱い"真相を知るために454頁は長過ぎた。
とにもかくにもそれからも物語は続き、衝撃が増した結末はきちんと用意されていたのだから、この点についてこれ以上触れるのはやめておこう。
ところで、本書を手にとったきっかけはその題名であったが、その後映像化されることを耳にし、観に行くことを決意した。上川隆也さんが、お調子者と言うか振り回され役であるハリーを演じると知って違和感を覚えたが、その点も楽しみにしておこうと思う。
ネタバレ
様々なジャンルの小説を様々な名前と色々な人の写真を使って書き上げていたハリーのもとに、刑務所にて死刑の執行を待つダリアンから手紙が送られてくる。
「俺の犯行を教えてやるから俺のために、俺にファンレターを送ってくる女性と俺とのポルノ小説を書いてくれ。」
12年前に世間を震撼させた猟奇的殺人者の告白本など、ベストセラー間違いなしだとクレアに乗せられ、ハリーは女性たちのもとを訪れる。
三人目の女性を訪れたその後、その女性が死体として発見される。そして一人目、二人目も同様に。しかもその犯行はダリアンが行ったものと酷似していた。
ダリアンは刑務所にいる。では、誰が?もしかして12年前の犯行もダリアンではなくこいつがやったのか?ダリアンにファンレターを送ってくる女性の名前を知り得るのは、ダリアンとハリーのみ。
第一容疑者にされたハリーは自身の容疑を晴らすため、探偵として奔走する。
突き止めたのはダリアンの母であり、ダリアンの弁護士であるフロスキーであった。
悲惨な人生を遂げてきた二人には強固な絆があり、息子の罪を紛らわすべくやったことだった。
ダリアンは4人の女性を殺害し、死体をバラバラにし、頭部以外の箇所を警察に送りつけてきた。
では、頭部はどこに。
彼の思い出の森にそれらが隠されていると感づいたハリーはタウンズ率いるFBIに協力を仰ぎすぐさま掘り起こしにかかる。
しかし、発見されたのは3つの頭蓋骨。
そのとき背後から銃声が。
実はダリアンによる被害者を装っていたトニーという男が、ダリアンの猟奇的な犯行の裏に妻の殺害を隠していたことが判明する。
トニーに人質に取られた恋人を庇うためにハリーは止むを得ず、トニーを殺してしまう。
この慌ただしい数日間を経て、ハリーは屈強な精神と希望を見出し、これからも数少ない読者を楽しませ、彼らのために一つの世界を作り出すために小説を書き続けることを決意する。
読書の軌跡
562ページ | 2013/06/19 03:01:21 |
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