アメリカ自由主義の伝統 (講談社学術文庫) [27回参照されました]
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本の紹介
100% [全465ページ]
状態 昔読んだ
2010/09/26 11:32:53更新
著者 ルイス ハーツ ブックリンクされた本
-評価
★★★★★感想
原著1955年のアメリカ政治学の古典中の古典。したがって、文章は難解。おまけに、政治学の常識を前提にしているので、ロック以下、政治学者、哲学者、歴史家、政治家等の名前が縦横無尽に言及されますが知らない人ばかり。正直読むのが大変です。
理解できた範囲で、大まかに言えば、ヨーロッパとは異なり、歴史上封建制度を有していないアメリカは、「生れながらの自由主義社会」であり、自由主義を絶対化した国民的信念「アメリカニズム」の支配する国であることです。
封建制度が存在していないアメリカでは、その「反革命」の発生を心配しなくて良い訳ですが、同時に社会主義の「革命」も心配する必要はありませんでした。絶対化した自由主義のアメリカニズムの下では、保守派<ホイッグ>は、存在していない封建制度から何の脅威も受けませんし、すり寄ることもできません。革新派<デモクラット>も社会主義に影響されることはありません。何故なら、アメリカの、小資本家、土地保有農民、プロレタリアートは、みなプチ・ブルジョアジーとしての強いアイデンティティーを有しており、プロレタリアート階級の階級闘争は発生しようがないのです。
さてハーツのこの著作は1955年です。
この後のアメリカを追ってみましょう。この後のアメリカは、公民権運動、ベトナム反戦運動等を経験し、絶対的自由主義に懐疑の生まれる困難な道を進んでいました(ハーツの論点に対する挑戦でもあります)。しかし、レーガン政権の誕生から、再び逆転が始まります。ホイッグの再興、アメリカニズムの世界への無条件適用を開始します。ブッシュJr.の9.11以後は、かつての赤狩りの集団ヒステリーが再発したかのようです。国内の反対派はもちろん、反対意見を持つ欧州諸国への感情的言葉使い、捕虜にしたテロリストは、犯罪者としての人権も、戦時捕虜としての人権も認めないという、非論理的な行動。絶対的自由主義を掲げる一国行動主義。
ところが、再び、2008年に針が振れます。デモクラトの反撃、オバマ大統領の誕生です。オバマの政策は改革政策です。そんな中で現在争点となっているのが医療保険改革。オバマ大統領はプラグマティックな政策として進めているわけですが、ホイッグの政治的反発は「社会主義」「共産主義」という言辞を弄しています。ハーツの記した1920年代のデモクラトによるニューディール政策と、ホイッグの反発を彷彿とさせる状況です。
ハーツ自身は一つの変数への単純化は分析の道具であり、全てを説明するものではないと明確にいっていますが、ハーツ以後のアメリカもこのハーツの道具立てで色々見えてくるものがあるように思います。古典中の古典で、新しい世代の批判を多く受けている論文ですが、現在読み返す価値は非常に高いと思いました。
読書の軌跡
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